水廻の総合商社  

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 ◎第1回(ウオシュレット・命名秘話―その1)

   
 家庭におけるウオシュレットの普及率(国内・昨年度・内閣府調査)は90%に近い。10軒のうち9軒で「お尻が洗われて」いるわけだ。パブリックのトイレでの普及率は少し落ちるだろうが、外国人観光客の増加につれて、今後増え続けることは間違いない。
 2020年の東京オリンピックでの最高の「お・も・て・な・し」はウオシュレットではないだろうか。快適さを実感した人たちが世界中に広めてくれるだろう。ところでウオシュレットはTOTOの商標であるが、この命名者は「何を隠そう」この私。発売当時、TOTOの広告宣伝課長だった。

 1980年国産初の「温水洗浄便座」が登場した。お尻は「拭く」が常識の時代に「洗う・乾かす」を提唱しようという、まさに「トイレの文化大革命」である。3カ月後の発売日は決まったものの「名前はまだない」状態だった。月並みな「温水洗浄便座」では「アノ快感」は伝わらない。いずれ「命名」の指示は組織を通じて私のところに降りてくるはずだが・・・・・。そんなとき、社長から直々の呼び出しである。「君のところで名前を考えてくれ。私はこの商品に賭けている。命名のポイントは3つ。1、さわやか・スッキリ。2、気持ちいい。3、憶えやすい」。当時広告宣伝課は組織上営業本部に所属していたのだが・・・・。社長は「これは営業で決めることでも多数決で判断することでもない。その後の広告宣伝も意識して君のところで決めてくれ。若い人、女性の意見も取り入れて・・・。決まったら直接言ってきなさい」。新商品への並々ならぬ思い入れと「名前」へのこだわりに圧倒された。光栄ではあるが荷は重い。

 ちょっと余談だが、それまでのTOTOの商品名といえば、たとえば「石鹸受付前丸手洗器」「足踏式自閉手洗弁」「筒型小便器」「受水槽定水位弁」「盗難防止式鏡」など真面目で硬いものが多かった。設計や工事の専門家向けには問題ないのだが、今回の新商品は消費者を意識した名称が求められる。

 早速5人の課員を集めて知恵を出し合うことになった。いろいろ案は出たのだが、商標として登録できなければ使えない。よさそうな名前を片っ端から調べてもらったが、殆どが「クロ」か「クロに近い灰色」である。「これなら」と思える数点を選んで社長への提案を繰り返したが、「ダメダ、ダメ、ダメ」。お気に召さない。名前が決まらなければダンボールも製品説明書の作業も進まない。他部門からも「早く決めろ」と圧力がかかる。「サテ」。

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